北海道では、妊婦さん希望の「無痛分娩」は発展途上の段階です。
札幌市でさえも、十分に普及しているとは言えない状況です。
当院では、麻酔科専門医を中心に、産科、小児科が一体となって、
安全と質を意識した「無痛分娩」を提供しております。

当院の無痛分娩3つの特徴

1.安心

  • 24時間いつでも麻酔対応が可能です。
  • 事前に麻酔科医師との面談(外来)があります(15~30分程度)。
  • 緊急時は常勤小児科医が24時間すぐに対応します。

2.安全

  • 麻酔科専門医を中心に、産婦人科専門医、助産師が対応します。
  • 急変などに対し迅速に対応できるよう、各種講習会へ参加や院内講習会を定期的に実施しています。

    J-CIMELS:日本⺟体救命システム普及協議会

3.快適

  • 麻酔の導入をLDR 室で行うことで、産婦さんの移動なく対応が可能です。
  • PCA(自己調節鎮痛法)付き注入ポンプを導入し、陣痛の急激な痛みなどにも迅速に対応します。
  • 分娩時、ご主人の立ち会いも可能です。

当院の無痛分娩

当院の無痛分娩

POINT 1 無痛分娩の大まかな流れ

  1. 産科受診
  2. 麻酔科面談
  3. 入院・麻酔開始
産科受診

無痛分娩を希望する場合、無痛分娩に興味がある場合(検討中の方含む)は、産科医や外来スタッフ(助産師・看護師)にお伝えください。

麻酔科面談

健診日などに合わせて、面談をお願いしています(火・木・土)。無痛分娩の麻酔方法や合併症、流れや費用など麻酔科医が詳細に説明します(15~30分程度)。既往歴や病歴などから無痛分娩が可能か判断します。無痛分娩の希望確認同意書をお渡しします。

入院・麻酔開始

痛みが出てきて、産婦さんの除痛希望があった時から麻酔導入を検討するようにしています。麻酔に必要な管(硬膜外カテーテル)を、除痛希望前に予め入れておく場合もあります。麻酔対応(管の挿入など)は、産科病棟のLDR室(陣痛・分娩・回復を一貫して過ごす部屋)で行います。

POINT 2 麻酔対応時間

24時間対応(土日祝日関係なし)

  • 妊娠37週0日以降の妊婦さんを対象としています。
  • 平日夜間(17時から翌朝9時)と土日祝日は、麻酔科医が院内に不在のため、無痛分娩対応になるまで30〜60分程度お待たせする場合があります。
  • 無痛分娩の導入(硬膜外カテーテルの留置など)は基本的に麻酔科医が行いますが、諸事情で麻酔対応可能な産科医が行う場合もあります。

POINT 3 入院スタイル

注) 37週0日以降の産婦さんが対象となります。それより前の週数の産婦さんへの対応は行っておりませんので、ご了承ください。

計画入院
  • 37週以降の産科外来(健診時)で、産科医が具体的な入院日(38週〜40週)を決定します。
  • 初産婦は前日14時(日曜〜木曜)、経産婦は当日9時(月曜〜金曜)の入院になります。
  • 分娩誘発は1〜2日間内を予定しておりますが、有効な反応が認められない場合は、一時退院していただく場合もあります。
初産婦の計画入院のながれ(麻酔対応まで)
  1. 前日14時に来院
  2. 病室(個室)または分娩予備室(陣痛室)で着替え、バイタル確認
  3. 産科医の診察・子宮頚管の熟化処置

    子宮頸管が熟化していない場合(硬い、未開大)は、子宮の入り口を軟らかくするための処置を行います

  4. 誘発(当日の朝7時〜)
    • 内服薬(プロスタグランジン) ※7時、8時、9時に内服
  5. 産科医の診察・子宮頚管の熟化確認(9時前後)

    診察後、当日の具体的な誘発プランが決定

    例)子宮頚管熟化の強化、内服薬の継続、内服薬→点滴(オキシトシン)へ変更など

経産婦の計画入院のながれ(麻酔対応前まで)
  1. 当日9時に来院
  2. LDR室(分娩予備室)で着替え、バイタル確認
  3. 産科医の診察・子宮頚管熟化処置

    子宮の頸管が熟化していない場合(硬い、未開大)は、子宮の入り口を軟らかくするための処置を行います(膣用剤で行うこともあります)

  4. 誘発
    • 内服薬(プロスタグランジン)
    • 持続点滴(オキシトシン)

      子宮頚管の熟化を行いながら誘発することが多いです。

自然陣痛の発来 or 破水して入院

入院後、産科医(助産師)の診察があり、無痛分娩の希望を確認し、麻酔導入(開始)の準備をします。

注)平日の日中(9時〜17時)以外は、麻酔科医が院内に不在のため、麻酔対応になるまで30〜60分程度お待たせする場合があります。

POINT 4 麻酔導入(開始)

【導入時期(目安)】

以下を目安に、産婦さんと助産師・医師が相談して決定します。

初産婦さん:
子宮口4〜5cmまで頑張ってもらってから対応が目安
経産婦さん:
痛みを少し感じ出したら対応が目安
→事前にカテーテル(管)だけを入れる場合もあります
【痛みの評価方法】
  • 陣痛は、下腹部を中心とした痛みです。個人差はありますが生理痛の強い時のような痛みに似ています。
  • 痛みの強さも麻酔の導入(開始)の参考にしています。
  • 痛みの強さを数字で表現して(教えて)もらいます。
    • 全く痛くないのを0(ゼロ)、自分が想像する一番強い痛みを10として、どれくらいなのか

図:痛みの評価方法

【麻酔導入のながれ】

点滴をとったあと、LDR室のベットに横になり腰から硬膜外麻酔に必要なカテーテル(管)を硬膜外腔(脊髄神経の近く)に入れてきます。その後、管から薬液を入れて痛みの軽減を待ちます。

注)麻酔が始まったら食事は吐き気の原因になる場合があるので中止とさせていただきます。飲むタイプのゼリー(エネルギー系)は摂取可です。飲み物は、水、お茶、麦茶、スポーツドリンク等であれば常時OKです。

POINT 5 麻酔の方法

  • 体の各部分から集まった神経は、脊髄という太い神経に集まり、脳へと続きます。
    脊髄は硬膜(袋)の中にあり、硬膜の外側には、硬膜外腔というスポンジ状の部分があります。硬膜外麻酔は、背中から専用の針を使って、硬膜外腔(スポンジ状の部分)に直径1mmの細い管(カテーテル)を挿入します。この管から局所麻酔薬を投与し、脊髄の直前で痛みの伝達を防ぎ、痛みを感じないようにします。
  • 外科(開腹手術)、整形外科(下肢手術)、産婦人科(帝王切開など)の術後鎮痛として用いている「硬膜外麻酔」を無痛分娩に応用しています。
  • 当院では、基本的に硬膜外麻酔で麻酔管理しています。分娩進行や痛みの強さなどから、状況によっては脊髄くも膜下麻酔(脊椎麻酔)を併用する場合もあります。
  • 当院では、硬膜外麻酔の効果を上げるためのDPEテクニック(薬液を入れない脊椎麻酔様の手技)を加える対応を行っています。

図:麻酔の方法
図:日本産科麻酔学会ホームページ「無痛分娩Q&A」より引用

【硬膜外麻酔】
  • 硬膜外腔にカテーテルを留置して薬液を注入
  • 鎮痛効果発現までの時間が長い(15~20分)
  • 薬液の繰り返し投与 or 持続投与が可能
  • 血圧低下の頻度が少ない
【脊髄くも膜下麻酔(脊椎麻酔・腰椎麻酔)】
  • 脊髄くも膜下腔に薬液を注入(1回だけ)
  • 鎮痛効果発現までの時間が短い(5分)
  • 鎮痛効果が強いが持続しない(約2時間)
  • 血圧低下の頻度が高い

POINT 6 麻酔による副作用・合併症

  • 血圧の低下(軽度)
  • 下半身の感覚の変化(しびれ、脱力感)
    ※効いているほどいきみにくくなる
  • 尿意の低下
  • 痒み(薬液の影響)
  • 体温上昇(原因不明、約20%)
  • 嘔気や嘔吐(血圧低下時、薬液の影響)
  • 穿刺部位の痛み(手技に関係)

以下は、稀 or 非常に稀な合併症です。無痛分娩外来で詳しくお伝えします。

【硬膜外カテーテル(管)を留置する手技などによるもの】
  • 硬膜穿刺後頭痛(手技に関係、約0.5~1%)
  • 硬膜外血腫(血小板値低い方、血液をサラサラにする薬を内服している方など)
  • 硬膜外膿瘍(注射部位での感染が原因)
【薬液注入後に起きるもの】
  • 重度の低血圧(相対的に麻酔薬が多く注入された場合など)
  • 高位(全)脊髄くも膜下麻酔(硬膜外カテーテルが脊髄くも膜下腔内に迷入が原因)
  • 局所麻酔中毒(硬膜外カテーテルの血管内迷入が原因)
  • 神経障害(麻酔薬によるもの、穿刺によるもの、分娩体位によるものもあり原因の特定が難しい、程度もさまざま)
麻酔(鎮痛)開始後
  • 血圧の低下(軽度)
    • 麻酔開始後30分は血圧測定(5分毎)や心電図モニターによる確認を行います。
  • 一過性の胎児徐脈(鎮痛直後〜30分、5分以内に回復、硬膜外麻酔では少ない)
    • 胎児心拍数陣痛図モニターを装着したまま麻酔導入しますので、発見や対応が遅れることはありません。
    • 回復が見られない場合は緊急帝王切開となることがありますが稀です。
  • 下肢の感覚低下・筋力低下(多少のしびれ感、脱力感)
    • 脱力感が強いと転倒の危険があるため、ベッドから出歩かないお願いをしています。
    • 下肢(足)が全く動かない時は危険なサインですので、血圧同様こまめに確認しています。
  • 痒み、体温上昇、嘔気・嘔吐(軽度)などの可能性
    • いずれも軽度なことがほとんどのため経過観察となります。
  • 尿意低下・排尿困難
    • 助産師による導尿(後半に1〜2回)を行います。
      • 麻酔が効いているので痛みはないです。

POINT 7 分娩までの麻酔対応

  • 最初に硬膜外カテーテルから麻酔薬を入れて、効果が出てくるまでは約15〜20分ぐらいかかります。
  • 麻酔の効果を確認したあとは、下図のような携帯型PCA注入ポンプで持続的に麻酔薬を投与して除痛を維持します。それでも痛みが強い場合などは、医師が硬膜外カテーテルより麻酔薬を追加して除痛します。

図:麻酔の方法
※当院では、携帯型PCA付き注入ポンプ(楽々フューザー®)を主に使用しています。
PCA: 自己調節鎮痛法

子宮口全開大から出産まで
  • 安定していた痛みが変化することがあります。
    • 分娩の後半になると、陣痛(下腹部中心の痛み)に加えて腰部や臀部(肛門周囲)の痛みが加わります。
    • PCAのワンプッシュをしても痛みが抑えられない場合は医師が硬膜外カテーテル(管)から麻酔薬を追加し対応します。
  • 終盤の痛みを積極的に抑えにいく(強めの薬液を多く使用する)と、分娩の勢い(子宮の収縮)が弱まわったり、いきむこと(怒責)が難しくなる場合があります。
    • 結果的に、分娩Ⅱ期(子宮口全開大~出産)の時間が長くなったり、吸引・鉗子分娩が必要になることがあります。

吸引分娩

鉗子分娩

POINT 8 分娩後の流れ

  • 麻酔薬(持続・追加投与など)は、出産後に中止します。
    • 中止しても麻酔効果は約1時間続きますので、会陰切開などの処置の痛みは感じないことが多いです
    • 後陣痛(産後の子宮収縮に伴う痛み)に対しても、麻酔薬による痛みの軽減が多少期待できます
  • 副作用(痒み、吐き気、発熱など)は、麻酔効果が薄れると同時に消失していくことがほとんどです。
  • 硬膜外カテーテル(管)は、LDR室で医師が抜去します。
  • LDR室で数時間安静にした後、病棟のお部屋へ移動します。
    • その後の痛みに対しては、座薬・点滴・内服薬での対応となります
  • 翌日以降、頭痛や下肢の痺れの有無などを麻酔科医が確認しに行きます。
    • 麻酔なしのお産でも頭痛、下肢の感覚異常、排尿障害など認める場合があります。気になることがあれば、病棟スタッフにお知らせください。
  • 分娩後アンケートを依頼しておりますのでご協力ください(記入後、病棟ナースへお渡しください)。

POINT 9 麻酔対応が延⻑になるとき

夕方までにお産にならなかった場合
  • 基本的に夕方以降(夜間)は、促進剤(誘発剤)の投与は行っておりません。
  • 計画誘発分娩の場合、夕方の時点でお産の進行がなければ、促進剤の使用を中止し、翌日、再誘発のプランとなります。促進剤を止めれば、子宮収縮の減弱に伴い(1時間後には)痛みは治まっていくことが多いです。痛みがなくなれば麻酔薬の投与は一般的には不要となりますが、翌日までに急にお産が進行する場合もあるので、基本的に麻酔は継続します。
    また、夕方までに麻酔導入(開始)されていない場合は、硬膜外カテーテルを留置する対応のみ行い、翌日までの予期せぬお産進行に対応(麻酔導入)できるようにしています。
夜間(17時~翌朝9時)の対応
【日中と対応が異なるところ】
  • 携帯型PCA付き注入ポンプによる痛み止めの追加はご自身で行ってもらいます(事前説明あり)。さらに追加鎮痛が必要な場合は、産科の当直医が対応します。
  • 配膳される夕食と朝食をとることが可能です。(飲むゼリーは常時可能)
  • 尿道カテーテルを留置します。
  • 麻酔導入のタイミングで費用が異なります。(次頁参照)

注) 他の産婦さんのお産進行状況によっては、LDR 室から分娩予備室(陣痛室)へ移動していただく場合があります

POINT 10 無痛分娩の費用

無痛分娩の費用は、通常の分娩費用に加えて、保険適応外の費用が必要となります。

  • A) 平日9時〜17時の麻酔導入で、17時までのお産: 10万円
  • B)平日9時〜17時の麻酔導入で、17時以降のお産: 12万円
  • C)平日17時〜翌朝9時までの麻酔導入: 14万円
  • D)土日祝日9時〜17時の麻酔導入: 14万円
  • E)土日祝日17時〜翌朝9時までの麻酔導入: 16万円
  • F)無痛の麻酔(導入)後に帝王切開へ移行: 7万円

    注) 最終的に帝王切開へ移行となった場合、それまでの費用が7万円に切り替わります。帝王切開へ移行するまでの時間などは関係ありません。

  • G)一度麻酔導入後、諸事情で退院。その後無痛対応なしで出産(帝王切開含む): 7万円

    例: 計画分娩で麻酔導入したにもかかわらず進行なく一時退院。その後陣痛がきて入院となるが急激な進行で無痛対応間に合わず出産。

  • H)硬膜外カテーテル留置のみで、諸事情で退院。その後無痛対応なしで出産(帝王切開含む): 3万円

    例: 計画分娩で予防的にカテーテルを留置したが痛みも進行もなく一時退院。その後陣痛がきて入院となるが緊急帝王切開になったため無痛対応にならなかった。

  • 初産婦、経産婦ともに共通です。
  • 誘発薬(促進剤)の使用のみでは、無痛分娩としての費用はいただいておりません。
  • 計画分娩で麻酔対応(カテーテル留置のみも含む)した産婦が進行なく一時退院となった場合、無痛分娩としての費用はいただいておりません。お産となった次回以降の入院で費用請求となります。
  • 予定外の対応時は、前記費用に加えて3万円が必要になります。
【無痛分娩外来(麻酔科面談)の費用】
  • 当院に通院中の妊婦さんは無料です。予約制ですので、ご希望あれば「産科外来」の「無痛分娩外来」の予約枠から予約してください。
  • 妊婦健診なしで無痛分娩外来のみの場合は、別途再診料)1,600〜2,000円ほど)がかかります。
  • 当院に通院されていない妊婦さんの面談は、有料です(諸費用込み4,000円程度)。

POINT 11 実績・スタッフの資格保有

2023年の実績
  • 分娩件数: 1155件
    経腟分娩: 847件(73%)
    帝王切開: 308件(27%)
  • 麻酔対応: 309名(初産181、経産128)
    麻酔対応率: 88% (希望した352名のうち309名の対応)
    麻酔下の経腟分娩: 278名(初産164、経産114)
    • 吸引分娩: 81名(初産73、経産8)、鉗子分娩: 6名(すべて初産)
    • 帝王切開移行: 28名(初産26、経産2)
      • 胎児機能不全(15)、分娩停止(12)、妊娠高血圧症候群(1)
当院スタッフの資格保有(2024年6月現在)
  • 麻酔科専門医 (1)
  • 麻酔科標榜医 (2)
  • 産婦人科専門医(10)
  • 小児科専門医(3)
  • アドバンス助産師(6)
  • J-CIMELS : 日本母体救命システム普及協議会
    ベーシックコースインストラクター(4)、ベーシックコース認定(19)
  • NCPR: 新生児蘇生法専門(A)コース
    インストラクター(6)、Aコース認定(76)
  • JALA: 無痛分娩関係学会・団体連絡協議会
    カテゴリーA受講終了(2)、カテゴリーD受講終了(50)

POINT 12 無痛分娩に関する説明文書など

  • 当院の無痛分娩の詳細を以下のPDFで確認できます(麻酔科外来でお渡ししているものと同様の内容です)

無痛分娩に関する説明文書(PDF)

  • 当院に通院の妊婦さんは、当院オリジナル動画配信サービス
    「wovie(ウィービー)」で「無痛分娩」をご覧いただくことにより当院の無痛分娩をより知っていただくことができます。http://bs.atlink.jp/toho-hosp/
    • アットリンクアプリをご利用の方はアプリメニューより「eラーニング」をご選択ください。
  • 当院の無痛分娩に関して気になることがありましたら、産科外来までお問い合わせください。
【参照】

日本産科麻酔学会ホームページ内一般の方へ無痛分娩Q&A
http://www.jsoap.com/
無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)ホームページ内
https://www.jalasite.org/

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